by MintJams

Bun/Vite6/Rspack: 開発現場の移行パスとビルド戦略

Bun, Vite6, Rspackへの移行を検討している開発者向け。現場でのビルド戦略、移行パス、そしてツール選定のベストプラクティスを、具体的な設定例とパフォーマンス比較から解説します。

現代フロントエンドのビルドツール選定、そのベストプラクティスを紐解く

フロントエンド開発のビルド環境は、目まぐるしく進化しています。かつてはWebpackが業界標準でしたが、現在は開発体験の向上とパフォーマンスの追求から、ViteBunRspackといった新世代のツールが台頭しています。これらのツールはそれぞれ異なる強みと弱点を持ち、プロジェクトの特性や移行のタイミングによって最適な選択肢が異なります。本稿では、これら3つのビルドツールに焦点を当て、現場での移行をスムーズに行うための選定基準、ビルド時間の比較、そして実践的なベストプラクティスを解説します。


この記事でわかること

  • Vite、Bun、Rspackの特性と、それぞれのツールの選定基準
  • 既存のプロジェクトを新ツールへ移行する際の具体的なパスと注意点
  • ツール間のビルドパフォーマンスを比較し、プロジェクトに最適なツールを見つける方法

本編:新世代ビルドツールが示す、開発効率の未来

Vite6: 開発体験とエコシステムの成熟度で選ぶ

Viteは、ESM(ECMAScript Modules)ベースの高速な開発サーバーが最大の特徴です。開発時にはバンドルを行わず、ネイティブのESMを利用することで、驚異的なホットリロード速度を実現します。これにより、大規模なアプリケーションでも、変更が即座に反映され、開発のイライラを大幅に軽減します。本番ビルドにはRollupを使用するため、既存のRollupプラグインのエコシステムを継承できる点も大きなメリットです。しかし、Viteは標準ではIE11のようなレガシーブラウザには対応しておらず、複雑なSSR(サーバーサイドレンダリング)や一部のレガシーなプラグインに深く依存するプロジェクトでは、移行に課題が生じる場合があります。

Vite設定例:vite.config.ts
import { defineConfig } from 'vite';
import react from '@vitejs/plugin-react';

export default defineConfig({
  // ビルド時の基底パスを設定
  base: '/my-app/', 
  plugins: [react()],
  build: {
    // CSSを個別のファイルとして抽出
    cssCodeSplit: true, 
    // `dist`ディレクトリに出力
    outDir: 'dist',
    rollupOptions: {
      // Rollupの設定をカスタマイズ
      output: {
        manualChunks(id) {
          if (id.includes('node_modules/react')) {
            return 'react-vendor';
          }
          if (id.includes('node_modules')) {
            // 大規模な依存を単一のvendorチャンクに集約
            return 'vendor';
          }
        }
      }
    }
  },
  server: {
    // 開発サーバーのポート番号
    port: 3000, 
    // 開発サーバー起動時にブラウザを自動で開く
    open: true,
  }
});

vite.config.tsbaseオプションは、本番環境のデプロイパスに合わせて設定することが重要です。この設定を怠ると、アセットのパスが不正となり、画面が正常に表示されなくなることがあります。rollupOptions.output.manualChunksは、依存関係をより細かく分割することで、初回ダウンロードサイズを抑え、長期キャッシュを効率的に利用できます。

Rspack: Webpackの互換性と高速性を両立させる

Rspackは、Rust言語で開発された超高速なビルドツールで、Webpackとの高い互換性を持つことを目的としています。WebpackのAPIと構成をほとんどそのまま利用できるため、大規模な既存のWebpackプロジェクトからの移行が非常にスムーズに行えます。特に、ビルド時間短縮が最優先課題である場合、Rspackは強力な選択肢となります。公式や第三者の比較では、Webpackと比較して最大で10倍以上のビルド時間短縮が報告されています。しかし、Webpackのエコシステム全てを完全にカバーしているわけではなく、一部のWebpackプラグインや最新機能には未対応な場合があります。

Rspack設定例:rspack.config.js
const path = require('path');

/** @type {import('@rspack/core').Configuration} */
module.exports = {
  // Webpackと同様のentryポイントを設定
  entry: {
    main: './src/index.tsx'
  },
  // Webpackと同様のmode設定
  mode: 'development', 
  devServer: {
    // 開発サーバーの設定
    port: 8080,
    open: true,
  },
  module: {
    rules: [
      {
        test: /\.[jt]sx?$/,
        exclude: /node_modules/,
        loader: 'builtin:swc-loader',
        options: {
          jsc: {
            parser: { syntax: 'typescript', tsx: true },
            transform: { react: { runtime: 'automatic' } }
          }
        },
        type: 'javascript/auto'
      },
    ],
  },
  output: {
    // Webpackと同様のoutput設定
    path: path.resolve(__dirname, 'dist'), 
    filename: '[name].bundle.js',
  }
};

Rspackは内部にSWCを統合しており、builtin:swc-loaderでJS/TSを高速にトランスパイル(型チェックは別途)できます。babel-loaderを別途追加する必要はありません。型チェックにはtsc --noEmitts-checker-rspack-pluginの併用を推奨します。

Bun: 一体型ツールとパフォーマンスの究極形

Bunは、JavaScript/TypeScriptのランタイム、パッケージマネージャ、バンドラ、テストランナーを一つに統合したツールです。Zig言語で開発されており、その実行速度はNode.jsやnpmをはるかに凌駕します。特に、スクリプト実行やテスト実行の速度は圧倒的で、CI/CDパイプラインの高速化に大きく貢献します。公式のベンチマークによると、Bunのパッケージインストール速度はnpmと比較して最大で30倍高速です。Bunはpackage.jsonをそのまま利用でき、Node.jsのAPI互換性も高いですが、全てのAPIを100%カバーしているわけではないため、ファイルシステムやネットワーク周りの一部のAPIを使用している場合は注意が必要です。

Bunでのビルドコマンド例
# ビルドコマンド
bun build ./src/index.tsx --outdir ./build --target browser

# 開発サーバーの起動(サーバー側のホットリロード)
bun --hot run dev.ts

# パッケージインストール (npm installの代替)
bun install

bun --hot run dev.tsは、ファイル変更を検知してプロセスを再起動せずにコードを再読み込みします。これはブラウザの自動リロードとは異なる点に注意が必要です。--targetオプションで、ビルドのターゲット環境(browser, bun, node)を明示的に指定できます。


トラブル時のチェックポイント

  • ViteでのCommonJSパッケージの混在: ViteはESMベースで動作するため、CommonJS形式のnpmパッケージや自作ユーティリティを多用している場合、一部で変換やラッパーが必要になることがあります。開発時にCJS-onlyの依存名でエラーが出る場合は、vite.config.tsoptimizeDeps.includeに明示的にパッケージ名を追加することで解決する場合があります。
  • RspackでのWebpackプラグインの非互換: RspackはWebpackとの互換性を目指していますが、全てのプラグインが完全に動作するわけではありません。特に、独自のカスタマイズが施されたプラグインや、コミュニティ製のマイナーなプラグインでは、動作しないケースがあります。
  • BunでのNode.js API互換性: BunはNode.js APIとの高い互換性を謳っていますが、fsnetといったファイルシステム・ネットワーク関連の一部APIは完全に互換性があるわけではありません。既存のNode.jsプロジェクトを丸ごと移行する際は、公式の互換性リストを事前にチェックしましょう。

チェックリスト:移行を始める前に確認すべきこと

  • プロジェクトの規模と複雑性

    • 小規模/新規プロジェクト → Vite
    • 大規模なWebpackプロジェクト → Rspack
    • 高速なCI/CDパイプラインが最優先 → Bun
  • 必要なプラグインの互換性

    • ViteやRspackに移行する場合、既存のWebpackプラグインが代替可能か、互換性のあるプラグインが存在するかを確認する。
  • チームのスキルセット

    • Webpackの経験者が多い → Rspack
    • 開発体験を重視するモダンなチーム → Vite
    • 新しいツールを積極的に試す技術者集団 → Bun

まとめ

今日のフロントエンド開発において、ビルドツールの選択はプロジェクトの成功を左右する重要な決断です。Viteは優れた開発体験と成熟したエコシステムで多くの新規プロジェクトに採用されています。RspackはWebpackからのスムーズな移行パスを提供し、大規模プロジェクトのビルド時間を劇的に改善します。そして、Bunはランタイムの統合と圧倒的なパフォーマンスで、開発ワークフロー全体を再定義します。これらのツールの特性とプロジェクトの要件を照らし合わせることで、最適な移行パスが見えてくるはずです。

この記事が、あなたのプロジェクトにおけるビルドツールの選定と移行について、少しでもお役に立てれば幸いです。ご覧いただきありがとうございました。


参考資料